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勤務医の退職金はいくら?|相場・ないケース・大学病院の扱いを解説

「医師は高収入だから、退職金も相当な額があるはず」と思われがちですが、実際には勤務先によって、退職金の有無も金額も大きく異なります。特に医局人事などで複数の病院を渡り歩く勤務医の場合、医師として働いた年数と、退職金の算定対象となる勤続年数が一致するとは限りません。
本記事では、勤務医の退職金の有無、相場の考え方、大学病院・市中病院での扱い、医局人事による異動の影響などについてお伝えします。

目次

勤務医に退職金はある?

退職金は、法律上すべての勤務先に設置が義務づけられている制度ではありません。厚生労働省のモデル就業規則の解説では、退職金について次のように説明されています。

「退職金制度は必ず設けなければならないものではありませんが、設けたときは、適用される労働者の範囲、退職金の支給要件、額の計算及び支払の方法、支払の時期などを就業規則に記載しなければなりません」[1]

つまり、退職金制度を設けるかどうかは勤務先によって異なり、「勤務医なら必ず退職金がある」というわけではありません。
実際に常勤医師の募集要項を見てみましょう。

  • 地方独立行政法人埼玉県立病院機構では、「3年以上勤続した方に対しては退職手当を支給」と明記されています[2]
  • 公立豊岡病院組合立豊岡病院の常勤医師募集要項でも、各種手当の一つとして「退職手当」が明記されています[3]

このように、退職手当制度を明示している病院はありますが、支給対象となる雇用区分、必要な勤続年数、具体的な算定方法は勤務先によって異なります。

勤務医の退職金の相場はいくらか

「医師の平均退職金」を示す公的な統計は存在していない

退職金に関する公的統計としては、厚生労働省の「就労条件総合調査」や中央労働委員会の調査があります。しかし、これらは産業・企業規模・学歴・退職事由などによる分類が中心で、医師という職種だけを取り出した全国的な退職金平均は、公的統計では確認できません[4]。

インターネット上では「勤務医の退職金相場は1,000万〜2,000万円」といった数字を見かけることがありますが、多くの場合、根拠となる調査が明示されていません。そこで、性質の異なる3種類のデータを分けて見ていきます。

①転職経験がある医師のアンケート実績値

医師の転職支援サービスを運営するメディウェルが、自社に登録する医師会員1,901人を対象として2023年6月に実施したアンケートでは、退職経験者の勤続年数別平均退職金が次のように示されています[5]

勤続年数平均退職金
1年未満25万円
1年以上3年未満66万円
3年以上5年未満108万円
5年以上7年未満177万円
7年以上10年未満302万円
10年以上841万円

実際に退職した医師を対象にしたデータとして参考になりますが、転職支援サービスに登録している医師を対象とした調査であるため、回答者は長期間同じ勤務先に勤め続けた医師とは限らないという点には注意が必要です。

②一般労働者・医療福祉業界の公的統計

厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、医療・福祉業で退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は75.5%です[6]
また、同調査では、勤続20年以上かつ45歳以上で定年退職した大学・大学院卒(管理・事務・技術職、医療系に限らない全業界)の平均退職給付額は1,896万円となっています[6]

もちろん、これは医師の平均退職金のデータではありませんが、「長期間同じ勤務先に勤務した場合、退職給付がどの程度になるケースがあるのか」を知るための参考値としては使えます。

③公務員型・長期勤続モデルの数字

内閣人事局の公表資料によると、令和6年度における国家公務員(常勤職員)の定年退職者の平均退職手当支給額は約2,160万円でした[7]

また、医師転職支援等を行っているS&Cドクターズキャリアのブログ記事では、国立病院機構の退職手当規程・俸給表をもとに、俸給月額60万円という仮定で独自試算を行っており、勤続10年の自己都合退職で約301万円、勤続20年の自己都合退職で約1,180万円、勤続30年の定年退職で約2,448万円というモデルケースを示しています[8]

まとめると⋯

転職経験のある医師を対象としたアンケートでは、勤続10年以上でも平均841万円にとどまる一方、同一組織に20年・30年と長期勤続するモデルでは、1,000万円台から2,000万円台になるケースもあります。
したがって「勤務先の制度と勤続期間によって、数十万〜数百万円程度で退職する人もいれば、長期勤続によって1,000万〜2,000万円を超える人もいる」というのが実態に近い理解と言えます。

退職金は勤続年数と勤務先の計算方式で決まる

常勤で現在勤務していらっしゃる先生は、「何を算定基礎額とし、勤続年数・退職事由に応じてどのような支給率を適用するのか」を勤務先の規程で確認してみましょう
たとえば北海道大学の職員退職手当規程では、退職時の基本給等と勤続期間を基礎として退職手当の基本額を算定する仕組みが明示されています[9]

このような仕組みの下では、3年勤務した場合と10年、20年勤務した場合とでは支給額の差がかなり開くかのうせいがあります。
また、年収が高い医師ほど退職金も高いとは限りません。というのも、退職金の算定基礎は必ずしも直近の年収そのものではなく、規程で定められた基本給相当額や勤続年数に連動することが多いためです。

大学病院勤務医の退職金はどうなる?

国公立大学病院の場合

国立大学法人の医師は、各大学が定める退職手当規程に基づいて退職金が計算されます。たとえば、前述したように、北海道大学の職員退職手当規程では、「退職手当の算定の基礎となる勤続期間の計算は、職員として引き続いた在職期間による」と定められています[9]。ただし、同じ大学病院で働く医師であっても、常勤職員・特任教員・契約職員など雇用区分によって適用される規程・支給条件が異なる点には注意が必要です。

私立大学病院の場合

私立大学病院でも、退職金制度を設けている大学はあります。ただし、支給条件や算定方法は学校法人ごとに異なります。したがって、私立大学病院の勤務医についても、「大学病院だから退職金は○万円」と一律に計算することはできず、勤務する学校法人の退職金規程と自身の雇用区分を確認する必要があります。

多くの私立大学は公益財団法人私立大学退職金財団に加入しています。同財団には標準俸給月額と勤続年数をもとに「退職資金」を算定する仕組みがありますが、これは財団から学校法人へ交付される金額の基準であり、医師本人が受け取る退職金額を直接決めるものではありません。

市中病院勤務医の退職金はどうなる?

大学病院以外の「市中病院」も、運営主体はさまざまです。地方自治体、地方独立行政法人、日本赤十字社や済生会などの公的性格を持つ法人、医療法人、社会福祉法人、その他の民間法人などがあり、運営主体によって退職金制度の有無・内容は大きく異なります。そのため、「市中病院だから退職金が多い・少ない」と一律には言えません。

たとえば、前述のように、地方独立行政法人埼玉県立病院機構では、3年以上勤続した常勤医師に退職手当を支給することが明示されています[2]。一方、医療法人など民間病院では法人独自の退職金制度となるため、制度の有無や支給条件は病院ごとに大きく異なります。

大学病院と市中病院を比較する際も、年収だけでなく、「退職金制度があるか」「何年以上勤続すれば支給対象になるか」「何を算定基礎にしているか」まで確認した方が、長期的な待遇をより正確に比較できます。

医局人事で関連病院を転々とすると、退職金はどうなる?

医局人事で複数の関連病院を経験してきた勤務医では、医師としての通算勤務年数と、1つの勤務先における退職金の勤続年数が一致しないことがあります。

関連病院への異動では、医局には所属し続けていても、異動先の病院と新たに雇用契約を結び、その病院の給与・就業規則のもとで勤務するケースが一般的にみられます。実際、大学の専門研修案内でも、関連施設で勤務する期間について「待遇は出向先の病院の規定に従う」とする例があります。

このように勤務する法人自体が変わる場合、退職金も原則としてそれぞれの勤務先の規程に基づいて計算されます。

そのため、例えば医局に10年間所属していても、

大学病院3年 → A病院3年 → B病院4年

と勤務先を移っていれば、「同じ勤務先に10年間勤続した場合」と同じ退職金にならないのが一般的です。

長期勤続ほど支給率が上がる退職金制度では、複数の法人を短期間で異動することで、1か所に長く勤めた場合より退職金総額が小さくなる可能性があります。

したがって、医局人事で勤務先を何度か変えてきた医師が今後の退職金を考える際には、現在の勤務先での勤続年数が何年になるのか、何年以上で退職金の対象になるのか、長く勤務した場合にどの程度支給率が上がるのかを確認することが重要です。

勤務医でも退職金が「ない」ケース

以下のような場合には、退職金がない、または制度の対象外となることがあります。

  • そもそも勤務先に退職金制度がない:退職金制度の設置自体は法律上の義務ではありません[1]
  • 勤続年数が支給条件を満たしていない:前述の例のように、「◯年以上の勤続」を条件とする勤務先が見られます[2]
  • 雇用区分が制度の対象外:専攻医・医員・研究員・契約職員などは、常勤職員とは異なる退職金規程が適用される場合があります。ただし、有期雇用だから必ず退職金がないわけではなく、病院・大学によって扱いが異なるため、雇用形態が変わるタイミングで確認しておくと安心です
  • 非常勤勤務が制度の対象外となっている:非常勤職員を退職金制度の対象外とする勤務先もありますが、扱いは勤務先の就業規則によって異なります

転職すると退職金はどうなる?

通常の転職(転籍にあたるもの)では、退職時点で在籍していた勤務先の退職金が一度精算され、新しい勤務先では勤続年数がゼロから積み上がるのが一般的です。そのため、長期勤続するほど支給率が上がるタイプの退職金制度では、短期間で転職を繰り返すことで、1か所に長く勤めた場合より退職金総額が小さくなる可能性があります。ただし、国公立病院間の一部などで勤続期間を通算する制度があるケースもあるため、転職のたびに必ずゼロになるとは限りません。

求人を検討する際は、年収だけでなく、退職金制度の有無・支給対象になるまでの勤続年数・算定基礎となる給与・転職や出向時の勤続期間の扱いまで確認しておくと、勤務先ごとの待遇をより正確に比較できます。

勤務医は退職金をどこまで当てにすべきか

医局人事などで勤務先を変えやすい勤務医の場合、将来受け取れる退職金の見込み額は読みにくいのが実情です。年収が高くても、1つの法人での勤続期間が短ければ、退職金という形での資産形成が思ったほど進んでいない、という状況は十分に起こり得ます。

老後資金や将来の資産形成を、勤務先の退職金だけに依存しない考え方も一つの選択肢です。NISAやiDeCoなど、自分自身で積み立てていく制度と、勤務先の退職金制度は、それぞれ役割が異なります。どちらか一方に偏るべきという話ではなく、自分の退職金の見込みがどの程度不確実なのかを把握した上で、資産形成全体のバランスを考える材料にしていただければと思います。

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よくある質問

勤務医には必ず退職金がありますか?

いいえ、あるとは限りません。退職金制度は法律上の義務ではなく、勤務先が任意に設ける制度です。勤務先の就業規則・退職手当規程を確認する必要があります。

勤務医の退職金の相場はいくらですか?

医師という職種に限定した公的統計は存在していません。転職仲介業者の実施したアンケートでは勤続10年以上でも平均841万円、一方で公務員型の長期勤続モデルでは定年退職時に2,000万円前後になり得ます。ネット上でよく見る「1,000万〜2,000万円」という数字は、一律の相場として鵜呑みにしない方が安全です。

大学病院の医師にも退職金はありますか?

大学・学校法人や雇用区分によって異なります。国公立大学病院は各大学の退職手当規程に基づき[9]、私立大学病院の多くは私立大学退職金財団に加入していますが、これは学校法人への資金交付制度であり、医師個人が公務員と同水準の退職金を受け取れることを保証するものではありません[10][11]。有期雇用のポジションは対象外となることもあるため、個別の確認が必要です。

非常勤医師にも退職金はありますか?

退職金制度は通常、常勤・正規職員を対象に設計されることが多く、非常勤勤務は対象外とされることが一般的です。ただし、「非常勤なら必ず退職金がない」とは限らず、勤務先の就業規則・雇用契約によって扱いが異なります。

まとめ

  • 退職金は法律上の義務ではなく、勤務先が任意に設ける制度であり、「勤務医なら必ずある」とは限りません。
  • 医師という職種に限定した信頼できる退職金の全国統計はありません。転職仲介業者の実施したアンケートでは勤続10年以上でも平均841万円、一方で公務員型の長期勤続モデルでは定年退職時に2,000万円前後になり得ます。
  • 「相場1,000〜2,000万円」というネット上の数字は、性質の異なるデータを一緒くたにしている可能性があり、鵜呑みにしない方が安全です。
  • 大学病院でも市中病院でも、実際の退職金は勤務する法人・雇用区分・勤続期間によって異なります。
  • 退職金の見通しが不確実な勤務医ほど、老後資金を勤務先の退職金だけに依存しない資産形成方法を考える価値がある

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<出典>
[1] 厚生労働省「モデル就業規則(令和5年7月版)」第52条(退職金の支給)解説 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000118971.pdf
[2] 地方独立行政法人埼玉県立病院機構「医師募集」https://www.saitama-pho.jp/c1401/saiyo/doctor/index.html
[3] 公立豊岡病院組合立豊岡病院「医師募集(常勤)」https://www.toyookahp-kumiai.or.jp/toyooka/saiyou/ishibosyu/
[4] 総務省統計局「統計FAQ 16C-Q08 退職金」https://www.stat.go.jp/library/faq/faq16/faq16c08.html
[5] マイナビニュース「〖医師1,901人調査〗7割が常勤先を退職した”経験あり” – 退職金はいくら?」(調査実施:メディウェル、2023年6月) https://news.mynavi.jp/article/20230910-2767412/
[6] 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」退職給付(一時金・年金)の支給実態 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/dl/gaiyou04.pdf
[7] 内閣官房内閣人事局「退職手当の支給状況(令和6年度)」https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/shikyu_jokyo_r06.pdf
[8] S&Cドクターズキャリア「医師に退職金はない?勤務先別の相場・計算方法と対策を解説」 https://www.sc-dr.net/ishi-taishokukin/
[9] 国立大学法人北海道大学職員退職手当規程 https://www.hokudai.ac.jp/jimuk/reiki/reiki_honbun/u010RG00000459.html

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この記事を書いた人

高所得層のための「キャピタル研究室」を運営しています。
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