※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療保険加入に関する助言ではありません。医師国保の加入条件・保険料は組合ごとに異なり、しばしば改定されます。実際の加入を検討する際は、必ずご自身が対象となる都道府県等の医師国保組合に直接ご確認ください。
「開業医は医師国保に入るとお得らしい」という話は聞いたことがあっても、常勤先を持たず非常勤の掛け持ちやスポット勤務のみで働くフリーランス医(バイト医)にとってはどうなのかでしょうか。
本記事では、常勤先を持たない医師(以下「フリーランス医」)が、医師国保と国保(市町村国保)のどちらを選ぶべきかについて、お伝えしていきます。
まず結論:高所得・単身のフリーランス医ほど、医師国保を検討する価値がある
被用者保険に入らない(入れない)フリーランス医が健康保険を選ぶ際に比較すべきなのは、次の2つの総額です。
医師国保に加入した場合の世帯全体の年間保険料 + 医師会の年会費 vs 市町村国保に加入した場合の世帯全体の年間保険料
一般的には、前年の所得が高く、単身または家族が少ない人ほど、医師国保が有利になりやすい傾向があります(市町村国保の保険料は主に前年の所得を基準に算定されるため、前年に高収入だった人ほど市町村国保側の保険料が高くなりやすいです)。一方、前年所得がそれほど高くない場合や家族が多い場合は、医師会費や家族分の保険料を含めると差が縮む、あるいは逆転することもあります。
以下では、その理由について説明していきます。
フリーランス医は、基本的には医師国保か市町村国保
いずれかの勤務先で健康保険の被保険者資格を取得している場合は、原則としてその被用者保険に加入することが義務になります。非常勤であっても、同じ勤務先に週数日以上務めていたり、月◯日以上などのシフト制の勤務だったりする場合は被用者保険の対象になることがありますので、転職時・入職時には注意して条件のところを見ておきましょう。
なお、複数の勤務先で被保険者資格を満たす場合は「二以上事業所勤務」の手続きが必要です。
一方、どの勤務先でも被用者保険の資格を取得していないフリーランス医の場合は、市町村国保と医師国保が選択肢になります。以下は、これに当てはまる方向けの内容です(マイクロ法人を設立して被用者保険に入るという道もあり、これについても後述します)。
市町村国保と医師国保、保険料はどう違うか
医師国保は、医師会などを母体として設立された国保組合です。
まずは、市町村国保と医師国保の保険料の決まり方の違いを見てみましょう。
- 市町村国保:前年の所得に応じて保険料が増える「所得割」があり、これに加入者数に応じた均等割などを加えて計算します。ただし、世帯単位で賦課限度額があります。
- 医師国保:組合員や家族の区分ごとに定額・均等割型の保険料を採用しています。
所得割のない定額型の医師国保と比較すると、市町村国保は前年所得に応じて保険料が増えるため、所得が高い人ほど医師国保の方が保険料面で有利になりやすくなります。
一応、市町村国保には賦課限度額があるため、一定以上の所得になると保険料はそれ以上増えません。ただし、これは「高所得になると市町村国保が有利になる」という意味ではなく、医師国保との差がそれ以上広がらなくなるというだけです。
たとえば、2025年6月の埼玉県議会で示された試算では、年収1,600万円・32歳・単身の男性医師の場合、さいたま市の市町村国保が賦課限度額の年109万円、埼玉県医師国保が年59万円、差にして約50万円という結果が示されました[1]。
なお、市町村国保の保険料は前年の所得を基準に算定されるため、勤務医からフリーランス医に転向した年など、前年と当年の所得差が大きい人は注意が必要かもしれません。
医師会の年会費を足して比較する
医師国保に加入する場合、原則として対象地域の医師会への加入が必要ですので、医師国保と国保で保険料を比較する際には、医師国保の側に医師会の年会費を上乗せする必要があります。医師会費は地域や会員区分によって異なるため、加入対象となる医師会のホームページなどを確認してください。
家族がいる場合
医師国保も市町村国保と同様に世帯単位での加入が原則で、医師本人だけ医師国保に加入し、家族は市町村国保のままにすることは認められていません。同一世帯に市町村国保加入者がいる場合、その家族も医師国保へ移すか、世帯全体で市町村国保に残るかのいずれかになります。
どちらの制度にも被用者保険のような「被扶養者」という概念がなく、家族もそれぞれ被保険者として保険料がかかります。そのため両者を比較する際は、世帯全体の保険料で試算する必要があります。
先ほど、高所得の場合は定額型の医師国保のほうが市町村国保より安くなる可能性が高いと述べましたが、家族がいる場合は、この差が縮むか、あるいは逆転することがあります。
というのも、世帯単位ではそれぞれ次のような仕組みになっているからです。
- 医師国保:家族1人ごとに定額の保険料が加算されるので、家族が増えれば世帯全体での保険料も増える。
- 市町村国保:家族が増えれば均等割などは増える一方、保険料には世帯単位の賦課限度額がある。すでに世帯の保険料が各区分の賦課限度額に達している高所得世帯では、加入者が増えても、すでに上限に達していれば、それ以上保険料は増えない。
筆者試算では、市町村国保の保険料が医師国保を下回るようになる逆転ラインは、年収700万円では3人世帯以上、年収1,000万円では5人世帯以上、年収1,500万〜2,000万円でも、(市町村国保が賦課限度額に達しているため)同じく5人世帯前後以上ということになりました(東京都で試算。35歳の医師、配偶者は収入なし、子どもは未就学児と仮定し、2026年度の東京都医師国保・東京都医師会費・東京23区の国民健康保険料率等をもとに筆者試算。地区医師会費は含みません。子どもの年齢や居住区、医師会費等によって逆転ラインは変わります)。
保険料以外の違い
保険料差が年間数十万円ある場合、まずその金額差を把握した上で、以下の事項がその差を覆すほど重要かどうかを各家庭の事情に応じて評価してみてください。
- 傷病手当金などの任意給付は組合による:埼玉県、神奈川県、大阪県、福岡県など独自の傷病手当金がある県もあれば、東京都や群馬県のように、そのような制度がないところもあります。
- 所得が大きく下がった場合は市町村国保が有利になることがある:定額型の医師国保は高所得時には有利になりやすい一方、所得が下がっても保険料が下がらない傾向にあります。市町村国保は所得に応じた保険料計算のため、一時的に収入が減った場合、翌年度の保険料が医師国保を下回ることがあり得ます。
- 自家診療に給付制限がある組合がある:医師国保では、自分や家族が自分の勤務先で診療を受けた場合に、保険給付を制限している組合があります。勤務先での受診や処方を日常的に利用する医師は、加入予定の組合の規約を確認しておく必要があります。
マイクロ法人という第三の選択肢
実体ある法人事業を運営している場合は、マイクロ法人を通じて健康保険・厚生年金に加入する方法もあります。ただし、市町村国保・医師国保との単純な保険料比較はできません。この方法では健康保険だけでなく国民年金から厚生年金への切替も伴うため、健康保険料・年金保険料・法人維持費まで含めて考える必要があります。
マイクロ法人については、以下の記事で詳しく解説しています。医師国保とマイクロ法人を比較した試算も掲載していますので、ぜひ参考にしてみてください。

よくある質問
- 医師国保の保険料は必ず市町村国保より安いですか?
-
そうとは限りません。高所得で単身世帯の場合は医師国保のほうが市町村国保より安くなる可能性が高いですが、家族がいる場合は、この差が縮むか、あるいは逆転することがあります。
- 医師国保の場合、傷病手当金を受け取れますか?
-
組合によります。例えば、埼玉県、神奈川県、大阪県、福岡県など独自の傷病手当金があるところもあれば、東京都や群馬県のように、そのような制度がないところもあります。
まとめ
- 医師国保・市町村国保とも世帯単位の加入が原則ですので、保険料を比較したい場合は「市町村国保に加入した場合の世帯保険料」と「医師国保に加入した場合の世帯保険料+医師会の年会費」を計算する必要があります。
- 所得割のない定額型の医師国保では、前年所得が高く、単身・家族が少ない人ほど有利になりやすいです。市町村国保の世帯単位の賦課限度額、医師会費、家族の人数を含めると差が縮む、あるいは逆転することもあります。
- 給付内容の違い(傷病手当金や自家診療制限)は、保険料差を踏まえた上での補正要因です。
- マイクロ法人を設立して協会けんぽ・厚生年金に切り替えるという選択肢もありますが、健康保険料だけでなく年金保険料・法人維持費まで含めて比較しましょう。
この記事で扱った話題は、私の執筆したnote「医師のための金融リテラシー講座」で扱っているテーマの一部です。
医師は、金融を学ぶ機会がほとんどないにもかかわらず、複雑な金融判断を迫られる場面に直面しがちです。
金融知識は、お金に関するさまざまな判断を自分自身で考えて行うための土台となるものであり、一度体系的に学んでおけば、その後の人生で繰り返し役立つはずです。
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<出典>
[1] 埼玉県議会「令和7年6月定例会 一般質問 質疑質問・答弁全文(小川寿士議員)」https://www.pref.saitama.lg.jp/e1601/gikai-gaiyou/r0706/2/b/02.html


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