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医師の不動産投資は本当に節税になる?損益通算・減価償却・マイクロ法人

本記事は不動産投資という手法自体の税務上の仕組みを解説する情報提供記事であり、特定の不動産投資・物件の購入を勧誘するものではありません。個別の投資判断は、税理士等の専門家にご相談の上、ご自身の責任で行ってください。


医師は不動産投資会社からの営業を受けやすい職業の一つです。
理由は単純で、医師は安定した収入と社会的信用の高さから、金融機関の融資審査で有利(与信が高い)とされ、融資を受けやすいためです。
自分の資産を守るためにも、営業担当者から「節税になります」と説明を受けたとき、その言葉が何を意味しているのか、理解しておいた方が良いです。
この記事では、不動産投資の節税効果に関わる「損益通算」と「減価償却」という2つの仕組みを整理してお伝えします。

目次

損益通算の仕組み

不動産所得は「不動産収入-必要経費」で計算されます。この必要経費には、管理費・修繕費・損害保険料に加えて、後述する減価償却費も含まれます。経費が収入を上回ると不動産所得は赤字になり、その赤字を給与所得や事業所得など他の所得と合算(損益通算)することで、課税所得そのものを圧縮できます。

ただし、この損益通算には制限もあり、不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するための借入金の利子に相当する部分は、損益通算の対象から除外されます(租税特別措置法41条の4)。一方、建物部分の借入金利子や減価償却費に由来する赤字は、この制限を受けずに通算可能です。医師の不動産投資においてよく言われる「減価償却費によって不動産所得を赤字にし、給与所得と通算して税負担を抑える」という仕組みは、この建物部分の赤字を使ったものであり、土地の借入金利子を多く使うほど、この制限の影響を受けやすくなる点には注意が必要です。

例えば、給与所得1000万円の人が、不動産所得の赤字400万円(すべて建物部分の減価償却費等による赤字とします)を損益通算すると、課税所得は600万円まで下がります。所得税の税率も33%から20%に下がるケースがあり、税率と課税所得の両方が下がることで、単純な赤字額以上に税負担が軽くなることがあります。

減価償却の仕組み

減価償却とは、建物のように時間の経過で価値が減っていく資産について、取得費用を耐用年数に応じて分割して経費計上する仕組みです(土地は対象外)。例えば、3,000万円で購入した築10年の建物(耐用年数47年、償却率0.026)であれば、毎年78万円を減価償却費として計上できます。

ここが最も重要なポイントです。減価償却費は、実際には1円も支出していないのに経費として計上できる項目です
家賃収入からこの減価償却費を差し引くことで、実際のキャッシュフローは黒字のまま、帳簿上の利益だけを圧縮できます。

注意点:減価償却は、節税というよりも「課税の繰り延べ」

減価償却による節税効果には、営業トークではあまり強調されない重要な見方があります。それは、減価償却費は税金を消しているのではなく、将来の納税を先送りしているだけという見方です。
物件を売却する際、譲渡所得の計算では取得費から減価償却累計額が差し引かれるため、その分だけ譲渡所得(=譲渡所得税の対象額)が大きくなります。つまり、保有期間中に軽減した所得税・住民税の一部は、売却時の譲渡所得税として戻ってくる構造になっています。

それでも、税率の高い現役時代に税金を圧縮し、手元資金(キャッシュ)を増やして別の資産運用に回せるため、高所得者にとって非常に強力な節税スキームとして使われていることは変わりありません。

「不動産所得が赤字だと、金融機関からの追加融資が受けにくくなるのでは」という懸念を持つ方もいますが、これは誤解であることが多いとされています。
金融機関が実際に評価するのは、減価償却”前”のキャッシュフローであり、減価償却後の帳簿上の赤字ではありません。
ただし、金融機関ごとに審査基準は異なるため、この点は個別に確認が必要です。

相続税評価額を下げる効果には、2026年に規制が入りました

不動産投資が「相続税対策」として売り込まれる場合、賃貸用不動産は現金よりも相続税評価額が低くなる(時価との間に乖離が生じる)効果を根拠にしていることが一般的です。
ただし、令和8年度(2026年度)税制改正で、貸付用不動産・不動産小口化商品の評価方法が見直され、こうした評価額の乖離を利用した過度な節税策には歯止めがかけられることになりました[1]
このように、「制度が変わることで、これまで語られてきた節税効果がそのまま今後も続くとは限らない」という点は、不動産投資を含む資産形成を行う上で留意しておく必要があります。

マイクロ法人を設立して不動産投資を行うと?

ここまで、医師個人が不動産を所有するという状況を前提に解説してきました。では、医師が自分で合同会社などの法人(マイクロ法人)を設立し、法人名義で不動産投資を行えば、さらに節税できるのでしょうか。

結論からいえば、法人化すれば必ず有利になるわけではありません。個人所有とは税金の仕組みそのものが変わるため、何を目的に法人化するのかを分けて考える必要があります。

「給与との損益通算」はできなくなる

個人で賃貸不動産を所有している場合、不動産所得が赤字になれば、一定の制限はあるものの、その赤字を給与所得など他の所得と損益通算できます。

前述の「減価償却費などによって不動産所得を赤字にし、給与所得と通算して所得税を抑える」という仕組みは、この個人の所得税における損益通算を利用したものです。

一方、法人名義で不動産を所有した場合、不動産から生じる利益や損失は法人に帰属します。

法人と医師個人は別の納税主体なので、「法人の不動産事業で100万円の赤字が出たから医師個人の給与所得から100万円差し引く」ということはできません。

一方で、法人内の利益とは相殺できる

法人側に不動産以外の事業がある場合は話が変わります。

たとえば、自分の法人で執筆・講演・コンサルティングなどの事業を行って利益が出ていれば、不動産事業で生じた費用や減価償却費も含め、原則として法人全体の所得を計算することになります。

そのため、「コンサル事業で利益が出ている+不動産事業では減価償却費などにより利益が小さい」といった場合には、法人全体として課税所得を抑えられることがあります。

また、青色申告法人で一定の要件を満たせば、欠損金を将来の法人所得と相殺する制度もあります[2]

高所得だから「法人の方が税率が低い」とは限らない

法人化のメリットとして、「高所得医師は所得税率が高いので、法人税率の方が低い」と説明されることがあります。

確かに、一定の中小法人では所得800万円以下の部分に法人税の軽減税率が適用され、原則15%となる部分があります。一方、個人の所得税は累進課税なので、高所得になるほど限界税率は高くなります。

ただし、法人には法人住民税や法人事業税などもかかるため、15%という数字だけを見て比較することはできません。

さらに重要なのは、法人に残したお金を最終的に医師個人が使うためには、役員報酬や配当などの形で取り出す必要があり、その段階で個人側にも課税が生じるということです。

そのため、「所得税率45%より法人税率15%の方が安いから、法人で不動産を持てば得」というほど単純ではありません。

法人所有が向いているのは「給与の節税」より資産管理を重視する場合

法人で不動産を持つ意味が出やすいのは、短期的に勤務医の所得税を減らしたい場合というより、不動産賃貸を継続的な事業として拡大し、法人内に利益を残して次の投資へ回していく場合です。

一方、「勤務医として高い給与をもらっているから、その税金を減らすためにワンルームマンションを1戸買う」という目的であれば、マイクロ法人を設立すれば節税効果がさらに大きくなる、とはいえません。法人所有にすると、個人の給与所得との損益通算ができなくなる点を理解しておく必要があります。

したがって、個人所有と法人所有では、どちらが節税になるかというより、「給与所得との損益通算を狙うのか」「法人内で資産を蓄積・再投資していくのか」という目的が異なると考えるのが良いと思います。

医師がマイクロ法人を設立することのメリット・デメリットについては、以下の記事をご参考ください。

よくある質問

減価償却による節税は、結局のところ得なのですか、損なのですか?

保有期間中の所得税・住民税を軽減する効果はありますが、売却時には減価償却累計額の分だけ譲渡所得税の負担が増えるため、「税金が消える」のではなく「納税のタイミングが先送りされる」と理解するのが正確です。

不動産所得が赤字だと、次の融資が受けにくくなりますか?

金融機関が実際に評価するのは減価償却前のキャッシュフローであることが多く、帳簿上の赤字がそのまま融資に不利になるとは限りません。ただし審査基準は金融機関によって異なるため、個別に確認が必要です。

不動産投資の相続税対策としての効果は、今も変わらず使えますか?

令和8年度(2026年度)税制改正で、貸付用不動産・不動産小口化商品の評価方法が見直され、評価額の乖離を利用した節税策には規制が強化されました。制度は変わり得るため、最新の情報を確認する必要があります。

不動産投資はマイクロ法人名義にした方が節税になりますか?

必ずしもそうとは言えません。個人所有の不動産所得が赤字になった場合、給与所得と損益通算して税負担を抑えられますが、法人名義で所有すると、その赤字は法人に帰属し、医師個人の給与所得とは通算できなくなります。法人化が有利になるのは、法人内に不動産以外の事業(執筆・講演・コンサル等)があり、その利益と不動産事業の赤字を法人全体で相殺できる場合や、資産を法人内に蓄積して次の投資に回していく場合です。

まとめ

  • 損益通算は、不動産所得の赤字を他の所得と合算して課税所得を圧縮する仕組みです。
  • 減価償却は、実際の支出を伴わずに経費計上できる項目で、節税効果の中心を担っています。
  • ただし減価償却による節税は「繰り延べ」に過ぎず、売却時の譲渡所得税として一部が戻ってくる構造になっています。
  • 相続税評価額を下げる効果については、2026年度の税制改正で規制が強化されており、制度は今後も変わり得ます。
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【出典】
[1] SBI証券 相続そうだんターミナル「令和8年度(2026年度)税制改正大綱の【相続税・贈与税】(資産課税)を解説」 https://go.sbisec.co.jp/consult/inheritance_column/column_detail_13839.html
[2] 国税庁「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5762.htm

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この記事を書いた人

高所得層のための「キャピタル研究室」を運営しています。
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