本記事は公開されている制度情報をもとにした一般的な情報提供です。相続税対策は個々の資産構成・家族関係によって最適な方法が大きく異なるため、実際の対策には税理士へのご相談を強くおすすめします。
まず、相続税は、遺産総額のすべてにかかるわけではなく、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される基礎控除額を超えた部分にのみ課税されます。
例えば配偶者と子2人が相続人の場合、基礎控除額は4,800万円です。医師のように資産形成が進んでいる世帯では、この基礎控除を超えるケースが少なくありません。
個人資産(預貯金、有価証券、不動産など)の相続税対策としては、他の記事で扱った生前贈与(暦年贈与・住宅取得資金贈与)が基本になります。

この記事では、まず相続税がどの程度の負担になるのか、勤務医の方が使える対策、そしてクリニックを持つ開業医の方に関係する「出資持分」の話題などを、順に解説していきます。
相続税の税率と資産規模の目安
基礎控除を超えた部分(課税遺産総額)には、以下の累進税率が法定相続分に応じて適用されます[1]。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | ― |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
勤務医・非常勤医師であっても、自宅(不動産)・預貯金・NISA口座の資産・退職金などを合算すると、基礎控除(配偶者と子2人なら4,800万円)を超えるケースは珍しくありません。
資産規模が大きくなるほど税率も段階的に上がる仕組みのため、早い段階で全体像を把握しておくことが対策の第一歩になります。
配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例
開業医かどうかにかかわらず使える、代表的な2つの軽減策があります。
- 配偶者の税額軽減:配偶者が取得した遺産が「1億6,000万円」または「法定相続分相当額」のいずれか大きい方までであれば、配偶者に相続税はかかりません。ただし、この軽減を受けるためには相続税の申告が必要です(税額がゼロになる場合も申告は必須です)
- 小規模宅地等の特例:被相続人が住んでいた自宅の土地を配偶者や同居親族が相続した場合、330㎡までの部分について評価額を80%減額できます[2]。例えば評価額5,000万円の自宅の土地なら、評価額を1,000万円まで下げられる計算になり、土地を含む相続では最も効果が大きい特例とされています。
特例の適用を受けるには申告が必須である点には注意が必要です。申告をしなければ特例自体が適用されず、追徴のペナルティが発生することもあります。
生命保険の非課税枠を活用する
死亡保険金・死亡退職金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられています[3]。法定相続人が配偶者と子2人の3人なら、1,500万円までの死亡保険金が非課税になります。預貯金をそのまま相続財産として残すより、生命保険に組み替えておくことで、この非課税枠の分だけ課税対象を圧縮できるという、比較的取り組みやすい対策です。
最後に、医療法人を経営している開業医の方へ向けた話題です。
医療法人の出資持分に関する注意点:純資産が多いほど相続税が跳ね上がる
自分でクリニックを開設し、医療法人化している場合、2007年(平成19年)3月以前に設立された医療法人(いわゆる「出資持分あり医療法人」)は、出資持分そのものが相続財産として扱われます。
医療法人が長年黒字を積み重ね、内部留保(純資産)が大きくなっているほど、出資持分の相続税評価額も比例して高額になります。
注意しておきたいのが、「医療法人の内部留保は現金として法人内に留保されているだけで、出資者個人の手元にあるお金ではない」ということです。それにもかかわらず、相続が発生すると、その評価額に基づいて相続税が課税されます。後継者(子など)は、相続税を払うための現金が個人の手元になく、医療法人に出資持分の払い戻しを請求せざるを得なくなり、それが法人の資金繰りを圧迫して経営に支障が出る、という事態が発生します。
2007年4月以降に設立された医療法人は、出資持分という概念自体がない「持分なし医療法人」が原則となっており、この問題は生じません。しかし、2025年時点で、全国の医療法人社団のうち約6割が、いまだに出資持分あり(旧法型)の医療法人とされています。
対策1:持分なし医療法人への移行
出資持分あり医療法人から、持分なし医療法人へ移行することは可能です。移行時には、出資者が持分を放棄することに伴う贈与税の課税問題が生じ得ますが、厚生労働省の認定を受けた「認定医療法人」として移行計画を進める場合、移行にあたっての税制優遇措置(贈与税の非課税など)を受けられる制度が用意されています。
移行には専門的な手続きが必要で、一定の時間がかかるため、早めの着手が推奨されています。
対策2:相続税・贈与税の納税猶予制度(2026年に3年延長)
出資持分を相続する際の相続税・贈与税について、一定の要件を満たす場合に納税を猶予する制度もあります。この制度は、適用期限が令和8年(2026年)12月31日までとされていましたが、令和8年度税制改正により、さらに3年延長されることが決まりました[4]。
医業を継続する後継者にとって、資金繰りの圧迫を避けながら事業承継を進められる、重要な制度です。
よくある質問
- 勤務医や非常勤医師でも、相続税の対策は必要ですか?
-
自宅・預貯金・NISA口座の資産・退職金などを合算すると、基礎控除(配偶者と子2人なら4,800万円)を超えるケースは珍しくありません。開業医でなくても、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例、生命保険の非課税枠は活用できます。
- 小規模宅地等の特例で、自宅の評価額はどれくらい下がりますか?
-
被相続人が住んでいた自宅の土地を配偶者や同居親族が相続した場合、330㎡までの部分について評価額を80%減額できます。評価額5,000万円の自宅の土地なら、評価額を1,000万円まで下げられる計算です。
- 自分の医療法人が「出資持分あり」かどうかは、どう確認すればよいですか?
-
2007年(平成19年)3月31日以前に設立された医療法人は、経過措置として出資持分ありのまま存続している「旧法型」に該当することが多いです。定款や設立時期を確認し、不明な場合は顧問税理士や法人設立時の書類で確認してください。
- 持分なし医療法人に移行すれば、相続税の問題は完全になくなりますか?
-
出資持分そのものが消滅するため、出資持分に係る相続税の課税対象はなくなります。ただし、移行の際に贈与税の課税問題が生じる可能性があるため、認定医療法人制度による税制優遇の活用や、専門家への相談が前提になります。
- 相続税・贈与税の納税猶予制度は、誰でも使えますか?
-
一定の要件(医業を継続すること、後継者要件など)を満たす必要があります。制度の適用期限は2026年12月31日から3年延長されましたが、要件の詳細は個別に確認が必要なため、税理士への相談をおすすめします。
まとめ
- 個人資産の相続税は、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えた部分に課税され、税率は資産規模に応じて10%〜55%まで段階的に上がります。
- 開業医でなくても使える対策として、配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで無税)、小規模宅地等の特例(自宅の土地評価額を80%減額)、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)があります。いずれも特例の適用には申告が必須です。
- 医療法人を持つ開業医は、出資持分あり(旧法型)医療法人の場合、注意が必要です。法人の内部留保が多いほど、相続税評価額が高額になり、後継者が現金で相続税を払えなくなるリスクがあります。
- 開業医の対策としては、持分なし医療法人への移行、または相続税・贈与税の納税猶予制度(2026年に3年延長)の活用が主な選択肢になります。
- いずれも専門的な判断が必要なため、税理士に相談することが推奨されます。
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医師は、金融を学ぶ機会がほとんどないにもかかわらず、複雑な金融判断を迫られる場面に直面しがちです。
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【出典】
[1] https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_5.htm
[2] https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
[3] https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm
[4] https://go.sbisec.co.jp/consult/inheritance_column/column_detail_13839.html


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